目次
1. 画面で見える図形が印刷プレビューで消える技術的背景
Excelで資料を作成中、オートシェイプや画像、テキストボックスを配置し、完璧なレイアウトを整えたはずなのに、印刷プレビュー(Ctrl + P)を確認すると一部の図形だけが消えていたり、特定の枠線だけが表示されなかったりすることがあります。これはExcelが、画面描画用のエンジン(GDI/GDI+)と、プリンター出力用のページ記述言語(PDL)への変換を別個のプロセスとして処理しているために発生します。
特にExcelにおける図形(オブジェクト)は、セルに入力されたデータとは異なり、シート上の「浮遊層」に存在します。そのため、個別のオブジェクトに「印刷から除外する」という属性が付与されていたり、Excel全体のシステム設定でオブジェクトの出力を制限していたりすると、画面上には表示されていても、印刷ジョブには情報が渡されません。本稿では、2500文字を超える詳細な解説を通じて、図形が表示されない際の「3つのレイヤー(個別プロパティ、アプリ設定、印刷範囲)」を特定し、確実にプレビューに復元させる手順を詳説します。
2. 手順①:個別の図形プロパティ「オブジェクトを印刷する」の確認
特定の図形だけが表示されない場合、その図形固有の「印刷属性」がオフになっている可能性が最も高いです。これは、以前の作成者が「メモ用のテキストボックス」などとして、印刷には載せない設定にしていた名残であるケースが多々あります。
- 印刷プレビューに表示されない図形を選択して 右クリック します。
- メニューから 「図形の書式設定」 をクリックします。
- 画面右側の作業ウィンドウで、 「サイズとプロパティ(四角いアイコン)」 をクリックします。
- 「プロパティ」 セクションを展開します。
- 「オブジェクトを印刷する」 というチェックボックスを確認します。ここが オフ になっていれば、 オン に切り替えます。
この設定は図形ごとに保持されるため、複数の図形が消えている場合は、 Ctrlキー を押しながらすべての対象を選択し、一括でチェックを入れることで効率的に修復可能です。
3. 手順②:Excel全体の「オブジェクトの表示」設定の修正
一つのシート内にあるすべての図形、または特定のブック内のすべての図形がプレビューに映らない場合、Excelのアプリケーションレベルの設定が「非表示」に制限されている可能性があります。
- Excelの 「ファイル」 タブ > 「オプション」 > 「詳細設定」 を開きます。
- 右側の画面をスクロールし、 「次のブックで作業するときの表示設定」 セクションを探します。
- 「オブジェクトの表示」 という項目を確認します。
- ここが 「なし」 にチェックされていると、図形は印刷対象から外れます。必ず 「すべて」 を選択して「OK」をクリックします。
この設定は「動作を軽くするために図形を表示したくない」という用途で使われますが、意図せず切り替わってしまうと、印刷時の「全消え」の原因となります。特に、マクロを実行した際に一時的に非表示設定にされた後、エラー等で設定が戻らなかった際によく見られる症状です。
4. 手順③:改ページプレビューと「印刷範囲」の整合性チェック
プロパティもオプションも正しいのに、図形の一部(特に端の方)が切れたり映らなかったりする場合、Excelが認識している「印刷範囲」の境界線が図形を跨いでいるか、あるいは範囲外に配置されていることが原因です。
- 印刷範囲の確認: 「表示」 タブ > 「改ページプレビュー」 を選択します。青い太線で囲まれた範囲が、印刷される領域です。
- 図形の配置: 図形がこの青い線の「外側」にあると、画面上では見えていても印刷対象外となります。青い線をドラッグして図形を包み込むように広げるか、図形を内側へ移動させます。
- 「印刷範囲の設定」の解除: 「ページレイアウト」 タブ > 「印刷範囲」 > 「印刷範囲のクリア」 を一度実行してみてください。これにより、Excelが自動的にデータのある全範囲(図形を含む)を印刷対象として再計算し、プレビューに復活することがあります。
5. 応用:グループ化された図形や「不透明度」の技術的干渉
さらに高度な原因として、複数の図形を 「グループ化」 している場合に、親となるグループのプロパティと、子の図形のプロパティで矛盾が生じているケースがあります。また、図形の 「透明度」 が高すぎる(100%に近い)と、プレビュー上では存在しないように見えることもあります。
- グループ化の解除: 一旦 Ctrl + Shift + G でグループ化を解除し、それぞれの図形に対して「オブジェクトを印刷する」の設定を再適用してみてください。
- ハードウェアグラフィックアクセラレータ: プレビューの描画が不安定な場合、「ファイル」>「オプション」>「詳細設定」の表示セクションにある「ハードウェアグラフィックアクセラレータを無効にする」にチェックを入れる(または外す)ことで、ビデオカードとの相性による「描画漏れ」が解決することがあります。
- 「下書き印刷」設定の確認: 「ページ設定」ダイアログの「シート」タブで 「下書き印刷」 にチェックが入っていると、図形は一切印刷されません。高速印刷のために図形を省く設定ですので、ここがオフであることを確認してください。
6. 図形が映らない原因の判別・対策比較表
| 発生状況 | 推定される原因 | 解決アクション |
|---|---|---|
| 特定の図形1つだけ消える | 個別プロパティの印刷設定オフ | 「図形の書式設定」から印刷をオン。 |
| シート内の全図形が消える | Excel詳細設定または「下書き印刷」 | 表示オプションを「すべて」に、下書きをオフに。 |
| 図形の端が切れる | 印刷範囲(改ページ)の設定不備 | 印刷範囲をクリア、または境界線を広げる。 |
| プレビュー自体が重い/真っ白 | GPUドライバとの相性・バッファ不足 | グラフィックアクセラレータの設定変更。 |
まとめ:印刷プレビューは「最終的な出力定義」の鏡である
Excelの印刷プレビューに図形が映らないという現象は、決して「気まぐれな不具合」ではなく、Excel内部で保持されている「印刷すべき情報」の定義漏れから生じます。画面で見えるからといって、そのまま紙やPDFに出力されるとは限らないのが、オブジェクトを扱う際の最大の注意点です。
まずは個別の図形プロパティを疑い、次にアプリケーション全体の設定、そして物理的な配置(印刷範囲)を確認する。この論理的なステップを一段ずつ踏むことで、未保存のデータを壊すことなく、確実にプレビューを本来の状態へと復元できます。特に「オブジェクトを印刷する」という設定項目は、普段は意識しない深層にありますが、ここを支配下に置くことで、メモ書きは印刷せず、完成した図解だけを正しく出力するといった、一歩進んだ資料作成が可能になります。道具の仕様を誠実に理解し、期待通りのアウトプットを得るための管理術を、日々の業務に役立ててください。
