Microsoft 365(旧Office 365)において、1枚目のExcelファイルはスムーズに開くものの、2枚目以降のファイルを開く際に10秒〜30秒以上の時間がかかる、あるいは「応答なし」の状態が続くというトラブルが報告されています。この現象は特に、2024年2月以降にリリースされた「Version 2402」およびそれ以降のアップデートを適用した環境で顕著に発生しています。
PCのスペック不足やファイル容量の問題ではなく、Officeの内部プロセスや設定の競合が原因である可能性が高いのが本件の特徴です。本記事では、日常業務を阻害するこの「2枚目以降の遅延問題」について、即効性のある設定変更からレジストリによる根本対策までを詳説します。
結論:最も有効な3つの回避策
- 「起動時のスタート画面」を無効にする:Excelのオプションから「このアプリケーションの起動時にスタート画面を表示する」のチェックを外します。
- ハードウェアグラフィックアクセラレータの設定変更:レジストリまたは設定から描画負荷を軽減します。
- Officeの「クイック修復」を実行する:インストール情報の整合性を修正します。
目次
1. Version 2402以降で発生している事象の技術的背景
Microsoft 365のVersion 2402以降では、Office全体のクラウド連携やバックグラウンドプロセスの最適化が行われましたが、これが一部の環境で「2つ目のインスタンス生成」に過度な負荷をかける結果となっています。1枚目のファイルを開いている状態ではExcelのプロセス(Excel.exe)が既にメモリに常駐していますが、2枚目のファイルを読み込む際の「初期化処理」が、特定のシステム環境下でループまたはタイムアウトに近い待機時間を発生させているのです。
不具合の主な要因
- スタート画面のレンダリング負荷:2枚目を開く際にも内部的にスタート画面の情報(最近使ったファイルの一覧取得など)を読み込もうとし、ネットワーク待機が発生しているケース。
- WebView2 Runtimeとの干渉:最新のOffice UIを表示するためのコンポーネントが、特定のグラフィックドライバと競合しているケース。
- DDE(動的データ交換)の待機:エクスプローラーからダブルクリックで開く際、すでに起動しているExcel本体への命令伝達に遅延が生じているケース。
2. 解決手順①:Excelの起動オプションを変更する
最も多くの環境で改善が報告されているのが、Excelの起動時に余計な処理をさせない設定です。スタート画面の非表示化により、2枚目以降のファイル読み込みプロセスが大幅に簡略化されます。
設定手順
- Excelを開き、左下の「オプション」をクリックします。
- 「全般」タブを選択します。
- 一番下までスクロールし、「起動オプション」セクションを確認します。
- 「このアプリケーションの起動時にスタート画面を表示する」のチェックを外します。
- 「OK」を押し、Excelを一度すべて閉じてから再起動してください。
3. 解決手順②:グラフィック設定とハードウェア加速の調整
Excelの描画を効率化するための「ハードウェアグラフィックアクセラレータ」が、逆に2枚目以降の起動を妨げている場合があります。Version 2402以降、この設定項目がオプション画面から消えている場合があるため、その際はレジストリでの対処が必要です。
レジストリによる設定(上級者向け)
- 「Win + R」キーを押し、
regeditを実行します。 - 以下のパスへ移動します:
HKEY_CURRENT_USER\Software\Microsoft\Office\16.0\Common\Graphics - 右側の画面で右クリックし、新規 > DWORD (32 ビット) 値 を作成します。
- 名前を
DisableHardwareAccelerationとします。 - 値を
1に設定します。
4. 解決手順③:Officeのオンライン修復・クイック修復
設定変更で改善しない場合、プログラム本体の破損や、以前のバージョンからの残骸が干渉している可能性があります。この場合、Windows標準の修復機能が有効です。
修復の手順
- 「設定」>「アプリ」>「インストールされているアプリ」を開きます。
- 一覧から「Microsoft 365」を探し、横の「…」から「変更」を選択します。
- まずは「クイック修復」を試します。これは数分で完了し、データの損失もありません。
- 改善しない場合は「オンライン修復」を実行します。こちらは再インストールに近い処理が行われるため、30分程度の時間が必要です。
5. 設定によるパフォーマンス比較
各対策を適用した際の影響度をまとめました。環境に合わせて優先順位を決める際の参考にしてください。
| 対策内容 | 期待できる効果 | リスク・副作用 |
|---|---|---|
| スタート画面非表示 | 高い。起動時のネットワーク待機をカット。 | 新規作成時に「空白のブック」が即開くようになる。 |
| ハードウェア加速OFF | 中。描画関連のフリーズを回避。 | 非常に複雑な図形を多用するシートで描画が若干遅くなる可能性。 |
| クイック修復 | 低〜中。システム整合性の回復。 | なし。 |
まとめ:環境に合わせた最適化の重要性
Microsoft 365は常に最新の機能が提供される反面、Version 2402のような特定ビルドにおいて、既存のビジネス環境とのミスマッチが生じることがあります。2枚目のファイルが開かないという問題は、PCの故障ではなく、こうした「ソフトウェアの過剰なバックグラウンド処理」が主因であるケースがほとんどです。
まずはリスクの低いスタート画面の無効化から試し、改善が見られない場合はレジストリや修復機能を検討してください。日常的に大量のExcelファイルを扱う業務において、数秒の遅延の積み重ねは大きな生産性低下を招きます。本稿の手順を一つずつ確認し、本来の快適な作業環境を取り戻してください。
