Microsoftが推進するAI PC「Copilot+ PC」の目玉機能として導入された「リコール(Recall)」は、ユーザーがPC上で行ったあらゆる操作を数秒ごとにスクリーンショットで保存し、後からAIで検索できる強力な機能です。しかし、プライバシー保護やセキュリティの観点から「勝手に画面を記録されたくない」「企業の機密情報が保存されるのが不安だ」と考えるビジネスユーザーは少なくありません。
リコール機能は、2025年の最新アップデートにおいて「デフォルトでオフ(オプトイン方式)」に変更されましたが、初期設定時に誤って有効にしてしまった場合や、バックグラウンドでの動作を完全に停止させたい場合には、手動での設定変更が必要です。本記事では、リコール機能の無効化、保存されたデータの削除、そして機能自体をシステムからアンインストールする技術的な手順を詳説します。
結論:リコールを停止する3つの段階
- 設定画面から「保存」をオフにする:最も基本的な停止方法です。
- スナップショット(過去のデータ)を削除する:これまでに記録された画面情報を一括消去します。
- Windowsの機能からアンインストールする:機能自体をOSから取り除き、完全に無効化します。
目次
1. リコール機能の仕組みとリスクの理解
リコール機能は、NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を利用して、PC画面の「スナップショット」を定期的に撮影・解析します。これにより「数日前に見ていたあの資料」を自然言語で検索できるようになります。しかし、この利便性の裏には以下のような技術的リスクが潜んでいます。
ビジネス利用における懸念点
- 機密情報の混入:社内システムや銀行口座の残高、パスワード管理画面などがスナップショットに写り込み、ローカルストレージに保存されるリスクがあります。
- マルウェアによる窃取:リコールの保存データは暗号化されていますが、PCへのログイン権限が奪われた場合、過去の全操作ログが一挙に流出する二次被害の可能性があります。
- ストレージの圧迫:高解像度のスナップショットを長期間保存するため、数GB単位のディスク容量を常に消費し続けます。
2. 手順①:設定画面での無効化と自動保存の停止
まずは、現在進行形で行われている画面記録を停止させる手順です。
- Windowsの「設定」(Win + I)を開きます。
- 左メニューから「プライバシーとセキュリティ」を選択します。
- 「リコールとスナップショット」(Recall & snapshots)をクリックします。
- 「スナップショットの保存」のトグルスイッチを「オフ」にします。
この操作により、以降の画面記録は行われなくなります。また、同じ画面にある「特定のアプリをブロック」設定を使えば、特定のブラウザや社内アプリだけを記録対象から除外することも可能です。
3. 手順②:保存済みスナップショットの完全削除
機能をオフにしても、これまでに撮影された過去のデータはPC内に残ったままです。これらを完全に消去する必要があります。
- 「設定」>「プライバシーとセキュリティ」>「リコールとスナップショット」画面を下にスクロールします。
- 「スナップショットの削除」項目にある「すべて削除」ボタンをクリックします。
- 確認画面が表示されるので「削除」を選択します。
これで、AIが検索対象としていた過去の履歴データがストレージから抹消されます。
4. 手順③:リコール機能自体のアンインストール
「設定をオフにするだけでは不安だ」「OSの機能として存在すること自体が不要だ」という場合は、Windowsのオプション機能からコンポーネント自体を削除できます。
アンインストールの詳細手順
- 「設定」>「アプリ」を選択します。
- 「オプション機能」をクリックします。
- 「インストールされている機能」の検索欄に「Recall」と入力します。
- 「リコール」が表示されたら、右側のメニュー(…)から「アンインストール」を選択します。
- 処理完了後、PCを再起動します。
これにより、設定画面から「リコール」の項目自体が消滅し、OSレベルで機能が取り除かれます。将来的に再度利用したくなった場合は、同じ画面から「機能を表示」を選択して再インストールが可能です。
5. 管理者向けのグループポリシーによる強制無効化
企業の情シス担当者など、複数のPCに対して一括でリコールを禁止したい場合は、グループポリシーエディター(gpedit.msc)を使用します。
| 設定場所 | ポリシー名 | 設定値 |
|---|---|---|
| ユーザーの構成 > 管理用テンプレート > Windowsコンポーネント > Windows AI | Windows のスナップショットの保存を無効にする | 有効 |
このポリシーを「有効」に設定することで、個々のユーザーが勝手にリコール機能をオンにすることを防ぎ、組織全体のセキュリティガバナンスを維持できます。
まとめ:AI機能とプライバシーのバランスを最適化する
Microsoftのリコール機能は、確かに未来的な利便性を提供しますが、2025年時点のビジネス環境においては、リスクがベネフィットを上回ると判断されるケースが少なくありません。特に個人情報や機密データを日常的に扱う業務では、まずは機能を完全に停止させ、システムの安全性を確保することが優先されます。
本記事で紹介した設定変更やアンインストールの手順は、いつでも元に戻すことが可能です。まずは自身の業務環境において、画面記録が本当に必要かどうかを精査し、不要であれば速やかに無効化することをお勧めします。OSが提供する新機能に対して、主体的に「使わない権利」を行使することが、現代のデジタルリテラシーにおいて極めて重要です。
