Windows OSには、ウェブサイトや共有フォルダ、リモートデスクトップなどのログイン情報を一括管理する「資格情報マネージャー」という機能が備わっています。一度入力したパスワードをシステムが記憶してくれる便利な機能ですが、一方で「パスワードを変更したのに古い情報のせいでログインできない」「NASや共有フォルダにアクセスを拒否される」といったトラブルの主原因にもなります。
ブラウザの保存情報とは異なり、OSの深い階層で管理されているため、適切に操作しないとネットワークトラブルを解消できません。本記事では、資格情報マネージャーへのアクセス方法から、誤ったパスワードの削除・修正手順、さらにはNAS(共有フォルダ)やRDP(リモートデスクトップ)で発生する認証エラーの技術的な解決策を詳説します。
結論:認証エラーを解消する最短手順
- コントロールパネルから起動する:『ユーザー アカウント』>『資格情報マネージャー』を開きます。
- 「Windows 資格情報」を確認する:不具合が起きているサーバー名やアドレスを探し、詳細を展開します。
- 古い情報を削除または編集する:一度『削除』して再接続時に入力し直すか、『編集』で最新のパスワードに書き換えます。
目次
1. 資格情報マネージャーの役割と保存される情報の種類
資格情報マネージャーは、Windowsがユーザーに代わって「認証(IDとパスワードの提示)」を自動で行うためのデータベースです。大きく分けて「Web 資格情報」と「Windows 資格情報」の2種類を管理しています。
Web 資格情報
主に旧来のInternet Explorerや、Windows標準アプリが使用するウェブサイトのログイン情報です。現代の主流であるMicrosoft EdgeやGoogle Chromeは、ブラウザ独自のプロファイル内でパスワードを管理しているため、ここに情報が表示されない場合もありますが、システムレベルの認証では依然として使用されます。
Windows 資格情報
ビジネス実務において最も重要なのがこちらです。以下の接続に関する認証情報が保存されます。
- 共有フォルダ・NAS:ネットワーク内のファイルサーバーへのアクセス権。
- リモートデスクトップ(RDP):他のPCへ遠隔操作でログインする際の認証。
- Outlook・Microsoft 365:デスクトップ版アプリのサインイン情報。
- プリンター:ネットワーク経由で使用する共有プリンターの権限。
2. 手順①:資格情報マネージャーの起動と基本操作
Windows 11/10ともに、最も確実なアクセス方法はコントロールパネル経由です。
- タスクバーの検索欄に
controlと入力し、コントロールパネルを開きます。 - 表示方法を「大きいアイコン」に変更し、「資格情報マネージャー」をクリックします。
- 画面上部の「Windows 資格情報」を選択します。
3. 手順②:パスワードの修正・削除の具体例(NAS・共有フォルダ)
「サーバー側のパスワードを変更したのに、自分のPCからアクセスしようとすると『ユーザー名またはパスワードが正しくありません』と即座に拒否される」という場合は、PC側に古い情報が「居座っている」ことが原因です。
不具合情報の特定と処理
- 「Windows 資格情報」の一覧から、アクセスできないサーバー名(例:\\192.168.xx.xx や \\FILE-SERVER)を探します。
- 対象の右側にある「下向き矢印」をクリックして詳細を開きます。
- 「削除」をクリックして一度情報を消去します。
- エクスプローラーから再度そのサーバーにアクセスを試みます。
- 改めてログイン画面が表示されるので、最新のIDとパスワードを入力し「資格情報を記憶する」にチェックを入れます。
「編集」でパスワードだけ書き換えることも可能ですが、システムによっては削除して再入力させる方が、認証トークンの再発行が行われるため解決率が高まります。
4. 応用:リモートデスクトップ(RDP)で「お使いの資格情報は機能しませんでした」の対処
リモートデスクトップ接続において、正しいパスワードを入れているはずなのにログインできない場合も、資格情報マネージャーが古いセッション情報を保持していることが多々あります。
| 確認すべき項目 | 技術的チェック内容 |
|---|---|
| サーバーアドレスの重複 | IPアドレス指定とホスト名指定で個別に資格情報が残っていないか確認。 |
| ドメイン名の有無 | ユーザー名が「\User」のみか「Domain\User」になっているか。 |
| TERMSRVの属性 | RDP用の資格情報は「TERMSRV/サーバー名」という特殊な形式で保存されます。 |
5. 技術仕様:資格情報の「バックアップ」と「復元」の重要性
PCの買い替えや、Windowsの再インストールを行う際、これまで蓄積してきたネットワークパスワードをすべて手動で入れ直すのは困難です。資格情報マネージャーにはエクスポート機能が備わっています。
バックアップ手順
- 資格情報マネージャー画面で「資格情報のバックアップ」をクリックします。
- 保存先を指定します(拡張子は .crd になります)。
- 「Ctrl + Alt + Delete」を押して、このバックアップファイルを保護するためのパスワードを設定します。
復元する際は、新しいPCで「資格情報の復元」を選び、バックアップ作成時に決めたパスワードを入力するだけで、すべての共有フォルダやサーバーへのアクセス権が引き継がれます。情シス担当者が複数台のPCをキッティングする際にも極めて有用なテクニックです。
6. セキュリティ上の留意点:物理アクセスへの無防備
資格情報マネージャーは非常に便利ですが、セキュリティ上の弱点も理解しておく必要があります。それは、「PCにログインできている人間は、保存されたパスワードを(表示可能なものに関しては)確認できてしまう」という点です。
- Web 資格情報の閲覧:保存された項目の「表示」をクリックし、Windowsのログインパスワード(またはPIN)を入力すると、伏せ字になっているパスワードが平文で表示されます。
- 物理的ロックの重要性:離席時にPCをロック(Win + L)しない環境では、他人が数クリックであなたのNASやWebサービスのパスワードを盗み出すことが可能です。
まとめ:ネットワーク認証トラブルの「第一の確認場所」に
Windowsにおけるネットワーク関連の認証エラーは、サーバー側の問題よりも、クライアントPC側に残った「過去の成功体験(古いキャッシュ)」が引き起こしているケースがほとんどです。共有フォルダが開かない、Outlookが何度もパスワードを求めてくるといった事態に直面した際は、まず「資格情報マネージャー」を覗く習慣をつけてください。
不要なエントリを掃除し、最新の情報を正しく登録し直す。このシンプルなメンテナンスが、不透明なエラーメッセージに悩まされる時間を最小限に抑え、スムーズな業務遂行を支える土台となります。OSが自動でやってくれる「親切な記憶」を、ユーザーが主体的に制御することで、PC環境はより堅牢で使いやすいものへと進化します。
