Windowsを使っている際、アプリケーションの起動やファイルのコピー時に「システムリソースが不足しているため、要求されたサービスを完了できません」というエラー(エラーコード:1450)が表示されることがあります。この警告の厄介な点は、PCに十分なメモリ(RAM)や空き容量がある状態でも発生する「論理的なリソースの枯渇」であることです。
このエラーは、単にアプリをたくさん開きすぎているから起きるわけではなく、Windowsのカーネル(OSの中枢)が管理する「ページプール(Paged Pool)」という特定のメモリ領域が上限に達している、あるいはセキュリティソフトの干渉によってリソースがロックされている場合に発生します。本記事では、レジストリ操作によるメモリ管理の最適化から、仮想メモリの再設定、ウイルス対策ソフトの競合解消まで、技術的な裏付けに基づいた解決手順を詳説します。
結論:リソース不足エラーを解消する3つのステップ
- レジストリで「ページプール」の上限を調整する:OSがメモリを効率的に回収できるように設定を書き換えます。
- サードパーティ製セキュリティソフトを一時停止する:フィルタドライバによるハンドルの専有を解除します。
- 仮想メモリ(ページファイル)を拡張する:物理メモリ不足を補うスワップ領域を手動で再定義します。
目次
1. エラーの原因:物理メモリ(RAM)不足との違い
タスクマネージャーを見て「メモリ使用率に余裕があるのに、なぜリソース不足なのか?」と疑問に思うかもしれません。このエラーの正体は、物理的なメモリ容量ではなく、OS内部の「管理用リソース」の限界です。
技術的な発生要因(プールメモリの枯渇)
- ページプール(Paged Pool)の限界:OSがドライバやプログラムの管理に使用する特殊なメモリ領域です。これが一杯になると、たとえRAMが16GB以上余っていても、新しいプロセスを開始できなくなります。
- ハンドルリーク(Handle Leak):特定のアプリやドライバが、不要になったリソースを返さずに掴み続けてしまう現象です。
- セキュリティソフトの干渉:ウイルス対策ソフトがファイルをスキャンする際、大量の「ハンドル」を消費し、一時的にOSのリソースを使い切ってしまうことがあります。
2. 手順①:レジストリ編集によるメモリ管理の改善
このエラーに対する最も根本的な「専門家向け」の解決策です。OSがメモリプールを回収し始めるタイミング(しきい値)を調整します。
- 「Win + R」を押し、
regeditと入力して実行します。 - 以下のパスに移動します:
HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Control\Session Manager\Memory Management - 右側のパネルで 「PoolUsageMaximum」 という値があるか確認します。なければ右クリック > 新規 > DWORD(32ビット)値 で作成します。
- 値を
60(10進数)に設定します。※これは、プールが60%に達した段階でOSがクリーニングを開始することを意味します。 - 次に 「PagedPoolSize」 という値をダブルクリックし、値を
ffffffff(16進数)に設定します。※これは最大値を動的に割り当てる設定です。 - PCを再起動して、エラーが解消されるか確認します。
3. 手順②:セキュリティソフトの「フィルタドライバ」の切り分け
特定のセキュリティソフト(McAfee、Norton、ウイルスバスター等)を導入している環境で、スキャンエンジンがリソースを専有しているケースが多く報告されています。
- 一旦、サードパーティ製のウイルス対策ソフトを無効化(またはアンインストール)します。
- Windows標準の「Microsoft Defender」のみが動いている状態で、同じ操作(アプリ起動やコピー)を行い、エラーが出るか試します。
- エラーが出ない場合、原因はそのソフトの仕様(またはバグ)にあります。ソフトを最新版にアップデートするか、設定で「リアルタイムスキャンの除外対象」に問題のフォルダを指定してください。
4. 手順③:仮想メモリの設定を手動で最適化する
システムが管理しているページファイル(仮想メモリ)のサイズが、リソース要求に追いついていない場合に有効です。
- 「設定」>「システム」>「詳細情報」>「システムの詳細設定」を開きます。
- 「詳細設定」タブの「パフォーマンス」セクションにある「設定」をクリックします。
- さらに「詳細設定」タブを開き、「仮想メモリ」の「変更」をクリックします。
- 「すべてのドライブのページングファイルのサイズを自動的に管理する」のチェックを外します。
- 「カスタムサイズ」を選択し、推奨値(例:物理メモリの1.5倍程度)を入力し、「設定」をクリックして保存します。
5. 対処法別の効果とリスク比較
現在のPCの状況に合わせた最適な手法を選択するためのガイドです。
| 手法 | 期待できる効果 | リスクと難易度 |
|---|---|---|
| レジストリ編集 | OSのメモリ管理ロジックを修正。根本解決に最も近い。 | 高(慎重な操作が必要)。 |
| セキュリティソフト無効化 | ソフトによるハンドルリークを即座に特定。 | 低(一時的な検証用)。 |
| 仮想メモリ拡張 | 全体的な作業領域(コミット済みメモリ)を増加。 | 中(ストレージ空き容量を消費)。 |
6. それでも解決しない場合の高度な診断
上記の手順をすべて行ってもエラーが続く場合、特定の「ドライバ」がメモリを漏洩させている可能性が高いです。これを特定するには、Microsoft公式のデバッグツール 「Poolmon」 を使用します。
- Poolmonの利用:Windows Driver Kit (WDK)に含まれるツールで、どの「タグ(Tag)」がページプールを大量に消費しているかをリアルタイムで監視できます。
- タグの特定:例えば「Etwd」というタグが大量消費していれば「イベントトレーシング」の不具合、「Nfat」であれば「ファイルシステムフィルタ」の不具合、といった具合に真の犯人を射抜くことが可能です。
まとめ:OS内部の「交通整理」を正常化する
「システムリソースが不足している」というエラーは、PCスペックに対する不満ではなく、OSが行っている「メモリの交通整理」に滞りが発生しているサインです。再起動で一時的に直ることもありますが、頻発する場合はレジストリの PoolUsageMaximum 調整などの技術的介入が必要となります。
まずはレジストリのしきい値を調整し、次にセキュリティソフトの競合を疑う。この順序で対応することで、PCの物理的な買い替えを検討する前に、ソフトウェアレベルでの健康状態を取り戻すことができます。自身の作業環境を論理的に管理し、不透明なシステムエラーに振り回されない堅牢なPC環境を構築してください。
